室町幕府四代将軍、足利義持が逝去する際、後継の将軍が4人の候補者から籤引きで決められた。六代将軍義教である。本書は、将軍の後継者が籤引きという方法で決定されるにいたった過程、また、日本史上において、卜占や籤引きによって制作が決定された事例やその重みについて詳細に解説をする。また、足利義教が政策決定に際して籤引きを再々使用したことなどもあげ、「神裁政治」という特殊な形態をとった義教の治世を批評していく。
古代には、卜占による裁判などが行われたといわれる。しかし、それは原始的な時代のものであり、特に法制が確立されるに従って、そういった原始的な方法はなくなっていく。それがなぜ室町時代に至って復活したのか。その背景に、鎌倉末期の蒙古襲来に対して祈祷が行われた結果「神風」が吹き日本が救われたことなどがあるとする著者の分析は興味深い。神仏に頼って願いが叶ったものは、さらに神仏にすがるようになる。それが国家的に行われていくというところに、人間心理の脆さ、危うさを感じさせるのである。
室町時代の歴史に対し、常に出色の見解を示してきた著者であるが、本書もまた期待に背かないユニークな、そして説得力のある論述で歴史の新たな見方を示してくれているのである。
(2003年5月3日読了)