読書感想文


ぐれる!
中島義道著
新潮新書
2003年4月10日第1刷
定価680円

 どうせ人間はいつ死ぬかわからないのだから、社会の規範に折り合いをつけられないで、理不尽な苦しみ方をしている人は、まっとうな生き方など捨ててしまい「ぐれて」生きようではないか。「ぐれる」というのは、社会から外れながらも犯罪を犯したり自殺したりするところまでは行かず、自分が社会に対して何かしら信号を出しながら社会に背を向けて生きるということなのだ。
 極端な例の出し方や、人間は理不尽に産み落とされ必ず死んでゆくものなのだという主張は、著者の他の本とはそうたいして変わらない。にもかかわらず、本書はどこか腑に落ちないものを感じてしまう。なぜだろう。
 それは、著者の定義する「ぐれる」ということが文脈の中でふらついて感じられるから、ではないかと思う。男性の場合、女性の場合、若者の場合、中年の場合、老人の場合と例を出してはいるのだが、そのたびごとに「ぐれる」の定義か微妙に違う。さらには、「ぐれる」事を書いているべきところで「醜い自分をそのまま受け入れよ」というメッセージだけを発信するだけで、ではいかにして「ぐれる」かまで踏み込めていない章もある。
 まず「ぐれる」という言葉を思いつき、それについて自分の年来の主張を盛り込みがら、書いている過程でその行為に意味をもたせようとしている。そんな感じで書かれた本のように感じられてならない。
 これはこの「新潮新書」の他の本でも感じたことだが、編集サイドの主導で「新潮新書」創刊ラインアップになんとか間に合わせようと急いで書いたのではないかと思われて仕方がない。話題性のみ先行して、内実がともなわない。そういう印象を受けてしまった。
 私は著者の本はわりと楽しんで読む方なのだが、本書に関しては面白さを感じなかった。新しいことを書いているわけでもなく、確固とした信念を貫いているわけでもない。作者の面白い部分を欠いてしまっている。残念ながら、そう感じた。

(2003年5月4日読了)


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