読書感想文


ブルー・ムーンに口づけを
怪盗紳士は夜、微笑う
一条理希著
富士見ミステリー文庫
2003年5月15日第1刷
定価560円

 父が亡くなり多額の借金を抱えた「桜探偵社」の一人娘、真子は、高額賞金のついた〈怪盗ノクトルム〉をつかまえて貧乏生活からおさらばしたいと夢見ている。母が拾ってきた若者祐作と、その兄恭一郎が現れてからは、その生活は一変する。真子の学校に転校してきた祐作、そして講師として赴任してきた恭一郎のコンビに真子はふりまわされっぱなしである。社長令嬢の同級生、綾小路綾子の家に伝わるダイヤモンド『透明な謎』を狙うという〈怪盗ノクトルム〉の挑戦状が届いたという情報を得た真子は、綾子の同級生が宿題をしに来たという形で屋敷に入り込み、〈怪盗ノクトルム〉をつかまえようとする。恭一郎は警察関係に顔がきくらしく、全幅の信頼を置かれている。果たして『透明な謎』は衆人監視のもとまんまと盗まれてしまう。恭一郎の推理は冴え、ダイヤは見つかり犯人もつかまるが、今度は綾子が誘拐されてしまう。一連の事件の裏にあるものはなにか。そして〈怪盗ノクトルム〉の正体は……。
 物語の導入にかなり不自然なところがあり、そこが作品の印象をかなりお手軽なものにしてしまっている。祐作と恭一郎の秘密や、推理部分のストーリー展開などは物語のツボを押さえた手堅いものになっているだけに、母が祐作を拾ってきて、それが真子の甥にあたるという導入とアンバランスなのである。真子の貧乏生活の誇張ぶりなどは気にならないということは、導入部分が以下に不自然かということを示しているのではないか。それが残念でならない。

(2003年5月18日読了)


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