読書感想文


晴明鬼伝
五代ゆう著
角川ホラー文庫
2003年5月10日第1刷
定価819円

 葛城の里を訪れた陰陽寮当主の賀茂忠行は、そこをおさめる役一族の長、大角から志狼という少年を預けられ、都で陰陽師の修業をさせることになる。志狼が見た都は、疫病が流行り死人が賀茂の川に流されていく暗い陰を持つ町であった。菅原道真の怨霊が藤原時平たちを呪い、御所は混乱に巻き込まれている。鳴滝と名乗る妖女が現れ、右大臣藤原定方に呪をかけ、帝を意のままに操ろうとする。鳴滝に使われている少女葛葉に恋をした志狼は、鳴滝の手から葛葉を救い、葛葉が弟として連れている童子とともに葛城へ帰る。志狼と童子を鬼として退治すべく忠行の嫡子、保憲は平将門と藤原純友を従えて葛城山へ。しかし、保憲もまた鳴滝の妖術にたぶらかされ、自分を失ってしまっていた。都を呪う鳴滝の野望、黒人の血をひく謎の男ドーマの陰謀、そして自らの愛を貫こうとする志狼。それぞれの思惑が絡み合い、都を巻き込む激しい戦いの火蓋が切って落とされる。
 作者には珍しい時代伝奇小説である。役小角伝説、葛葉狐伝説などをモチーフに、蘆屋道満をドーマという存在に仕立て上げ、スケールの大きな作品に仕立て上げた。もちろん、小説の手法としては作者の本領である異世界ファンタジーの形をうまく使っている。したがって、風水や呪文などは多用されず、登場人物の持つ超自然的な力が物語を動かしていく。
 歴史上の人物をいいあんばいに配置し、因果関係をパズルのようにあてはめていくという伝奇小説の手順も、もちろん踏み外してはいない。異世界ファンタジーの方法論で書かれた異色の時代伝奇小説として、読みごたえのあるものに仕上がった大作である。
 タイトルは、結末になって明らかにされる大事な仕掛けをばらしてしまっていて、それが残念。晴明の名をつけないと売れないという判断だろうが。これはいくらなんでも作品に対して失礼なのではないだろうか。

(2003年5月29日読了)


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