読書感想文


大坂商人
武光誠著
ちくま新書
2003年5月10日第1刷
定価700円

 江戸時代、「天下の台所」と呼ばれて栄えた大坂。そこで活躍した代表的な商人をとりあげ、その発想や信条を明らかにしたもの。鴻池新六、淀屋常安ら江戸時代初期の豪商に始まり、三井高平、住友友芳ら元禄期の富豪、そして下村彦右衛門、嘉納治兵衛ら化政期から幕末にかけての新興商人まで、現在につながる大坂商人の系譜をたどる。
 いわば現代版「日本永代蔵」とでもいうべき内容のものである。商人一人一人のエピソードは面白く、わかりやすい。しかもここには現代人に対してのメッセージとして江戸時代の大坂商人に学べという教訓も含まれている。西鶴についてもページを割いているあたり、「日本永代蔵」をかなり意識しているように思われる。
 しかし、よく読んでみれば全く正反対のことをして成功した商人を並べていたりして、このままでは大坂商人のどこに学べばよいのか迷ってしまう。大阪的な合理的精神という背景もあるのだが、それを強調しているわけでもない。資料を調べてわかりやすく整理したという点では評価できるが、それ以上のものを求めるとちょっと苦しいような気がする。
 序章があるのに終章がなく、まとめ切れていないところに、本書の特徴があるといっていい。本書は、大坂商人のカタログであり、大坂の歴史を知る手がかりは与えてくれているが、そこから先をどう発展させていくかは読者次第ということになるのだろう。

(2003年5月31日読了)


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