著者は朝日新聞の元記者。在職中に、大阪版の夕刊に連載した枝雀の評伝に加筆し、枝雀の家族、弟子たちの座談や落語作家小佐田定雄へのインタビューなどを収録したもの。
枝雀が亡くなって4年たつ。生前の枝雀に関する証言者は多く残っている。しかし、本格的な評伝は書かれてはいなかった。演芸担当記者であった著者は、高座の枝雀も、そして素顔の枝雀も好きでたまらなかったそうだが、その思いが行間からにじみ出ている。本書を読むと、枝雀が「笑いの仮面」を私生活でもつけ、ひたすら自己改造を試みたことがわかる。しかし、自分の作り上げた「桂枝雀」を保持しつづけるには相当のエネルギーが必要だったのである。年をとるに従って、そのエネルギーを維持し続けられなくなった枝雀には、「枝雀」そのものを変えてしまうこともできず、鬱状態になってしまう。そのあたりはあまり深入りせずに事実のみを柔らかく書き記しているだけなのだが、それだけに枝雀の背負っていたものの重さがわかってくる。
不世出の爆笑王、稀代の落語家、桂枝雀の多様な側面を余すところなく伝えた好著。遊び紙に三つ柏の紋を透かし彫りに見えるように刷り込んであったりする装本が美しく、内容を引き立てている。
(2003年6月5日読了)