「フランダースの犬」「王子と乞食」「小公子」「宝島」「吸血鬼ドラキュラ」「家なき子」「十五少年漂流記」「ドリトル先生物語」「西遊記」「最後の授業」「クオーレ」「ピーター・パンとウェンデー」「若草物語」「野性の呼び声」「少女パレアナ」。子ども向けの名作全集に必ずといっていいほど並ぶこれらのラインナップを、大人の目で読み直してみたらどうなるか。著者は、作品が書かれた時代背景や、これらの作者の執筆時の状況など、様々な情報をもとに解析し、それがなぜ日本で名作として受け入れられたかを読み解いていく。
「本当は怖い……」と銘打たれた童話の解析本が流行したことがあったが、私は書店で手にとって数ページ読んでみた段階で買うのをやめたことが何度かあった。書き手の恣意的な解析(?)に失望したのだ。
しかし、本書はそれらとは一線を画する。詳細な情報をもとに、客観的な分析をしてみせた上で、作者の大胆な解釈を加えている。そこにきちんと筋が通っている。例えば、「宝島」が経済小説であったという解釈は、当時の海賊が国家公認の商船でもあったという歴史的事実を踏まえた上で導きだされている。「若草物語」が男性社会からの女性の自立を描こうとしていたのではないかという推測も、その舞台が南北戦争の時代のアメリカ北部であることなどを背景に導き出されたものである。
著者は、自分の推測を決して断定的には書かない。あくまで推測であることをことわっている。ここらあたりに「本書は決してキワモノではない」という作者の姿勢がうかがえる。文学作品の奥深さを伝えようとする本書のあり方に共感を覚える。
逆にいうと、子どもに本を読ませようなどという親は、ここまでとはいわないが、なぜその本を子どもに読ませたいかという理由を明確に持っておいてほしいという著者のメッセージが裏に込められているように思うのだが、むろんこれは私の推測である。
(2003年6月22日読了)