難病のために入院しているしずるさんは天才的な推理力の持ち主で、世間を騒がせている難事件を、唯一の友だちであるよーちゃんが持ってくるそこいらで手に入る雑誌や新聞の記事だけを材料にその真相を解き明かす。片足で腕がもぎ取られた上に手を顔に突っ込んだ変死体の事件、心臓だけがくりぬかれて発見された死体の事件、失血した傷口に犬の唾液が付着していたにもかかわらず密室からその犬が消え去っていた事件、箱ぬけのマジックを披露したマジシャンが本当に消失してしまった事件の謎を解いた後は、よーちゃんの通報で警察が動き始める。
いわゆる「揺り椅子の探偵」である。その趣向といい、トリックといい、特に目を見張らせるわけではない。実は本書で気になるのは探偵役のしずるさんとワトソン役のよーちゃんの実態である。作者は意識的に二人の素性などを伏せている。しずるさんの難病の症状も読者にはわからないし、よーちゃんの私生活も不明である。ただ、よーちゃんの家族が警察に影響のある人物で、しずるさんの推理をよーちゃんが警察に通報すると警察が無条件に動き出すということは明らかにされている。
恐ろしいのはよーちゃんではないか。ごく平凡な少女のふりをしながら無自覚にその権力を行使しているし、しずるさんはしずるさんで、よーちゃんがその権力を行使することに対しては頓着していない。この無自覚さは、作者が意識的に仕掛けている罠なのか。断定はできないが、その可能性は高い。となると、本書だけでこの作品を評価するのは実に難しい。作者がこの二人の少女にこめているメッセージが明らかにならないまま本書は終っている。むろん続編もあるのだろう。そうでなければこの不自然な設定を素直に受容することができないのだ。
さくしゃがこの二人にこめたものが何なのか。それが明らかになった時に、本作品の評価が定まるといってもいいだろう。
(2003年7月10日読了)