著者は手塚プロダクションの資料室長。鉄腕アトムの雑誌掲載時の図版を多用し、手塚治虫が当初に構想していたアトムと、そして、アトムの変遷をたどる。たとえば、手塚治虫は「アトム誕生」のシーンを、それこそ機会があるごとに繰り返し描いている。それは雑誌掲載時だけではなく、単行本に収録する際に書き下ろしたものから、「アトム今昔物語」、さらにセルフ・パロディである「アトムキャット」まで。アニメでも2回同じシーンを作っている。なぜ手塚治虫がそれほど「アトム誕生」にこだわったのか。つまり、「鉄腕アトム」のテーマがそこに集約されているからにほかならない。
アトムの生みの親である天馬博士を雑誌で出しては単行本で削るということを繰り返していることも、本書では明らかになる。天馬博士という複雑な性格のキャラクターを手塚治虫がどう表現しようか探っていたということなのだろう。
虫プロ版の白黒アニメ、そして手塚プロ版のカラーアニメの比較も興味深いし、「ジェッターマルス」が最初は「アトム2世」として構想されていたという企画書にも、手塚治虫が何度もアトムに挑戦しようとしていたことがうかがえる。
手塚本人は新作漫画に触れてほしいのにアトムのことばかりきかれるのに対して業を煮やし、アトムそのものを拒否するような発言をしたりもしている。そして、「研究書」と称する本でその発言だけが一人歩きしている。だが、本書で示されるように手塚治虫自身が何度も繰り返してアトムを作り出そうとしたという事実が、その発言が決して真意ではないことがわかる。
徹底的に「鉄腕アトム」を調べ上げた本書こそ、本年大量に出回る「鉄腕アトム」本の決定版といって差し支えないのではないだろうか。
(2003年7月19日読了)