読書感想文


マルドゥック・スクランブル The First Compression−圧縮
冲方丁著
ハヤカワ文庫JA
2003年5月31日第1刷
定価660円

 賭博師シェルは、次々と少女をかこい、殺し、その遺灰を固めて宝石とし指輪にしている。それは、記憶を失ってしまう彼が唯一少女たちの痕跡を自分のものとしておく儀式でもあった。新たな生け贄となった少女娼婦バロットは、自動車に閉じ込められて爆死してしまう。しかし、瀕死の彼女を委任事件担当官であるネズミ型万能兵器のウフコックとドクター・イースターが救う。彼女は自分の声は失ったが、電子干渉能力を得て蘇り、ウフコックたちとともにシェルを起訴する。シェルにの委任事件担当官はボイルド。彼はかつてウフコックと組んでいたが、現在はコンビを解消している。ボイルドは、畜産業者で人体を収集しその一部を自分の体に移植するフェチシストたちにバロットの抹殺を依頼する。ウフコックの能力を使いこなせるようになったバロットを襲撃する畜産業者たち。彼女は自分の身を守り自分の存在意義を賭けた訴訟に臨むことができるのか。
 書下ろし三部作の第1巻。どん底の中で自分を解放することのなかった少女が、抹殺されかけるという経験を経て、最高の兵器を身につけた時に自己解放していくという展開には読みごたえがある。特に、畜産業者の襲撃以降の展開は、スピード感があり一気に読ませる。
 私は作者のデビュー作を読んだ時に、かなり背伸びをしていると感じ、その背伸びが作品のリアリティを奪っていると思ったことがある。その印象が強く、それ以降作者の作品に手がのびなかったのだが、本作ではそのギャップはほぼ埋められたというように感じられた。ただし、私自身がハードボイルド・タッチのものを苦手としているため、本書も3分の2くらいまではかなり読み辛かったのは事実である。特に、賭博師側の裏社会は何かきれいすぎるように感じる。こういうのをカッコイイと思う人もいるだろうから、そこはまあ、趣味の問題でしかないわけだけれど。どうも主人公にしてもなにか地べたを這いずってきたという経歴にリアリティを感じられないのだ。おそらく作者は、そういう世界を描くにはピュアすぎるのではないかという気はする。
 とはいえ、物語はまだ始まったばかり。畜産業者との戦いのスピード感が次巻以降も続いていくのなら、かなり面白くなりそうだ。最終的な評価は完結編を読んでからくだしたい。

(2003年7月27日読了)


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