読書感想文


フィニイ128のひみつ
紺野あきちか著
ハヤカワSFシリーズJコレクション
2003年7月31日第1刷
定価1500円

 亡くなった叔父が残した言葉「フィニイ128のひみつ」。この言葉の謎を探ろうと、大学生の主人公はアメリカに渡る。その飛行機がハイジャックされ着陸に失敗する。この大事故に奇跡的にも生き延びた彼女と、飛行機の中で知り合った日本人の少女るみは、現実規模で行われるRPGゲーム『W&W』に参加する。そこに「フィニイ128のひみつ」が隠されているらしいのだ。〈光の戦士〉という役割を与えられた彼女は、るみとともに会場に行き、迷宮をくぐりぬけていくが、その途中でるみは行方不明になってしまう。るみの居所を探る彼女は、『W&W』の考案者でありゲーム世界を支配するティム・スタンフィールドがるみを支配の切り札として確保しているという情報を得る。彼女は東京からハワイ、そしてアメリカ本土に渡り、この大規模なゲームの中核に迫っていく。
 最初は謎の言葉の意味を探ろうとしていた主人公が、失跡した友人を探すことに目的を変え、ついでゲームの世界にどっぷりとはまってしまう。その様子は現実よりも虚構に意味を見い出していく現代人のカリカチュアととれなくもない。作者の筆致は彼女がゲーム世界にのめりこめばこむほど、それをいくぶん突き放したかのようなものになっていく。
 ただ、惜しむらくは、そういった虚構世界と現実世界はどこまでいっても融合することもなく、作者は虚構世界で突っ走る主人公の姿をひたすら描写するにとどまってしまっている。主人公が熱くなるほどに、ゲーム世界での権力争いが激しくなるほどに、物語そのものの空虚さがあらわになっていく。ゲームの世界と現実世界の接点を作者はところどころでほのめかすが、それは結局消化不良のまま終ってしまう。虚構と現実がないまぜになってしまうのは主人公とゲームに参加している人間だけであって、実際の社会にはなんの揺らぎもない。そういう世界をSFと呼べるかどうか。ヴォネガット『猫のゆりかご』を暗喩しているからといって、本書がSであるかどうかは関係のない話だと思う。
 素材としては面白い。しかし、虚構と現実の関係性があいまいなため、せっかくの素材を生かし切れないのが残念なところだ。
 新人のデビュー作としてはかなり健闘していることに間違いはない。要は、読み手が作者の提供するゲーム空間を自分のものとして感じ取れるかどうか、そこが本書を読む場合のカギとなるだろう。私は残念ながら自分のものとすることができないまま読み終えてしまったのであるが。

(2003年7月13日読了)


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