読書感想文


大阪環状線めぐり ひと駅ひと物語
読売新聞大阪本社社会部著
東方出版
2003年5月20日第1刷
定価1500円

 JR大阪環状線の19の駅にまつわるエピソードを写真とともにまとめた読み物。新聞の好評連載を一冊の本にまとめている。
 土地には、それぞれの歴史がある。ましてや多くの人を飲み込み吐き出ししている駅には、その駅ができたいきさつから現在まで、時代とともにいろいろな変遷があって当然である。本書は、大阪の人に親しみの深い大阪環状線をとりあげ、駅ごとのエピソードから大阪という町の特性や歴史、駅ごとに少しずつ異なる住民の気質までを楽しく、そしてわかりやすく示してくれる。
 私は京都の産なので、大阪環状線にはあまり縁がなかった。大学を卒業して最初に勤務した学習塾が環状線の沿線にあり、そこではじめて通勤に環状線を使うことになった。JRがまだ国鉄といっていた頃のことである。本書でその最寄り駅の項を読むと、その駅を2年間毎日使っていたにもかかわらず、ほとんどわかっていなかったのだと思い知らされた。記者の方たちが実にていねいな取材をしていることも、同時に感じられた。大阪の町について知る手がかりとして最適な好著といえるだろう。
 ところで、新聞連載はかなり面白い企画であってもなかなか一冊の本として残ることはない。しかし、簡単には捨てられないものも多い。さらに、新聞の場合はその新聞をとっていない家庭にはどんな面白い企画であっても届かないという弱点がある。それがこのようにまとめられるのは、その新聞を講読していない身としてはありがたいことである。こういう企画はもっとあっていいと思うのだが。

(2003年8月7日読了)


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