読書感想文


約束の地
平谷美樹著
角川春樹事務所
2003年6月8日第1刷
定価2100円

 フリーライターの高木は、かつて超能力者について好意的なルポを書いたことがあった。そのことを覚えていた超能力者の新城邦明は、高木にある依頼をする。それは、かつて「超能力者同盟」というウェブサイトの掲示板に書き込みをしていた本当の超能力者(サイキック)たちの居場所を突き止めてほしいというものだった。孤独な生活を送っていた邦明は、亡き母が求めていた〈約束の地〉に仲間と集い、一般社会から隔絶された場所で暮らすことを夢見ていた。夫や子どもから見下されていた主婦の麻美、家族や会社を捨ててホームレスの生活を送っていた恵一、拝み屋の養父のもとで神霊治療をしていた聡子、美人局にひっかかって暴力団組員に追われる工員の泰男……。邦明のもとに次々とサイキックが集まってくる。しかし、彼らを追うものもいた。自衛官の櫻木である。彼はサイキック部隊を作るための責任者であった。鷹文というサイキックを擁する彼は、私立探偵の黒崎を使い高木がコンタクトをとったサイキックを狩り出そうとする。カメラマンの和彦、フリーライターの伺朗は櫻木の協力を断わったために黒崎や鷹文によって殺されてしまった。東北の一寒村で協同生活をしていた邦明たちをねらい、櫻木の探索の手が入ってくる。サイキックの存在に恐怖を抱いていた櫻木は、邦明たちを殲滅しようとしていた。邦明たちと鷹文たちの人知を超えた壮絶な戦いが始まろうとしてる……。
 これは、平谷美樹による『七瀬ふたたび』(筒井康隆)である。マイノリティである超能力者たちが安息の地を求めて自分たちの世界を作ろうとするが、一般の人間はそれすら許さない。ただ、本書の場合は、それがサイキック・ウォーズにまで発展してしまうこと、自分たちの存在と一般の人間の存在の違いを理解したサイキックたちが人間そのものを超える存在になっていく過程で起こった摩擦だということ、そして一般の人間の使う「言葉」がいかに不完全なものであるかということを提起しているところに大きな特徴がある。
 サイキックをめぐる邦明たちと櫻木たちの暗闘を描く第1部のスリリングな展開。そして、一度捨てた村に舞い戻ってきた老人たちとコミュニティを作るが自衛隊の攻撃により戦いが始まる第2部の構成の妙。これまでの作者とはまた違う緊迫感あふれる作品に仕上がっている。そして、これまでの作品に見られた作者の「優しさ」は、本書にはない。これも意外な展開だったといえる。とうとう一つのハードルを超えたな、というのが私の実感である。
 筒井康隆、半村良などが挑んできたテーマに愚直にぶちあたった作者の、これはひとつの回答だといえるだろう。ここにあるものは、相容れないものはどうしたって相容れないのだという厳しい現実である。その現実の悲しさ、虚しさを描きあげた現在、作者は当然次の段階に進んでいくだろうし、そこには人類というものを突き放した透徹した視点を持ち続けていくということにもなるだろう。
 今回もSFの王道に挑んだ作者は、みごとに正面突破してみせた。本書は現時点での作者の最高傑作なのではないだろうか。SFファンだけでなく、幅広い読者層にお薦めしたい。

(2003年8月8日読了)


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