読書感想文


13
古川日出男著
角川文庫
2002年1月25日第1刷
定価800円

 橋本響一は片目が色弱という障害があったため、ほかの人にはない色彩感覚を持つようになる。アフリカでピグミーチンパンジーの研究をしている従兄の関口に頼まれてジョ族の少年ウライネと自宅で生活した響一は、ウライネの親友となり、中学を卒業するとザイールへ渡ってジョ族とともに生活する。森の中で強烈な体験をした響一は、ついに神を色彩で表現するにいたる。そのころ、ザイールのキリスト教会では、異言を発する少女ローミが現れる。彼女は初めて行った教会で、なんと英語で聖書の一説を語るのであった。響一をたずねて森にやってきたローミ。そこでローミは異言を発する人格の「13」と本来のローミがいて、教会に帰る時に本来のローミは死ななければならないことを響一に打ち明ける。森に住むジョ族は町に住むものたちによって殺戮され、響一は帰国する。大人になった響一は自分が表現できるようになった「神」を多くの人に見せたいと考えて映画美術の世界に身を投じる。ハリウッドの商業主義に反発する映画監督マーティン・ケリーと女優ココは新たなプロダクションを作り、響一を美術担当者として招く……。
 色彩を言語であらわす。それも、私たちが見たことのない「神」を表現する色彩を。作者はこの野心的な試みを小説という手段で達成している。驚くべきことに、これが長編第1作、しかも書下ろしである。デビュー作でこういうことをやってのけたあと、作家として何を続けて書くことになるのかと思わせる船出ではなかろうか。
 主人公の天才なるがゆえに孤独な少年時代、そんな彼を受け入れてくれるジャングルの部族。そこに私は作者の影を見る。おそらく作者は一般社会の中でかなり苦しい思いをしていたのではないだろうか。それをそのまま書いたわけではないだろうが、潜在的に感じていたものが投影されているのに違いあるまい。
 さらに、偶然が積もり重なって聖女と奉られる少女の存在も強烈である。彼女の自我は聖女とされた自分と本来の自分とに分裂してしまう。ここでも特別な存在の者が社会で生きていくということの難しさが描かれているように思う。ただ、この少女の物語は後半のごく一部でその結末がかんたんに語られるだけなのだ。これは、デビュー作ということで全体の構成のバランスの取り方を作者がつかみ切っていないからではないかと思われる。
 ただ、そういった欠点など何事でもないと思わせるだけの、作品そのものの持つ「力」はある。全てを合理的に解明していっているように見せてはいるが、本書の根本はファンタジーである。幻想的な色彩をモチーフにした、異世界の物語なのだ。

(2003年8月13日読了)


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