落語を多角的にとらえ、その歴史から現在までを俯瞰しようとする試み。執筆者も多岐に渡り、落語に対する新しい楽しみ方ができるようになっている研究書である。
桂米朝インタビューで開幕。文学者の小谷野敦が落語の文学的価値を書き、日本文化史の学者である川添裕が「らくだ」という噺のできた時代的背景を探り、上方芸能の研究者の荻田清が上方落語の歴史と特質を概説する。江戸文学の研究者、中込重明は三遊亭円朝の作った落語が芝居や翻訳小説を換骨奪胎したものだと解明し、江戸文化の研究者である今岡謙太郎は歌舞伎と講談や落語の関係を丹念に解き明かす。中国文学研究者の武田雅哉は中国で落語にあたる話芸があると紹介、江戸文学研究者の延広真治が江戸時代の縁起かつぎを背景にした「かつぎや」「しの字嫌い」「猿後家」といった落語が今の形になるまでをたどる。明治時代の演芸評論家、條野採菊(鏑木清方の父)の落語評論を再録したと思ったら、映画監督山田洋次、そして柳家小三治へのインタビューで本文が締めくくられる。付録には落語に関する一問一答、東京の寄席でよく演じられる落語の調査がついている。
よくいえばバラエティに富んでいるが、テーマそれ自体がいささか散漫になっている感は否めない。だから、本書は落語が好きでたまらない者が、より深く落語を楽しむための手引きであると考えた方がいいだろう。とはいえ、個々の文章に関してはそれぞれがじっくり掘り下げられてあり、読みごたえがあった。
難点は価格が高いこと。この値段ではすっとそのままレジに持っていかれない。私は全3巻が揃ってから店頭で内容をじっくり確かめてからまとめて購入した。落語の本というのはこういう価格設定をしなければならないほど刷り部数が少ないものなのか。それだけ落語ファンは(全国的なレベルで考えて)数少なくなっているのだろうか。
(2003年8月29日読了)