読書感想文


1988年10・19の真実 平成のパリーグを変えた日
佐野正幸著
新風舎
1999年6月3日第1刷
2001年10月20日第4刷
定価1300円

 1988年10月19日、パシフィック・リーグのペナントレースは大詰めを迎えていた。川崎球場でのダブルヘッダー、ロッテオリオンズ対近鉄バファローズの試合でバファローズが2連勝すれば最終戦にしてバファローズが西武ライオンズを追い抜いて優勝を決めるのである。日頃は閑古鳥が鳴いている川崎球場に続々と集まる野球ファンたち。スタンドには著者がいた。著者はバファローズの東京応援団の主要メンバーである。観客席には真剣に取材をする新人の女性アナウンサーがいたり、突如満員になって慌てふためく球場関係者がいたり……。いろいろな人々の思いが重なりあい、第1試合はバファローズが辛勝。そして運命の第2試合が静かに幕を開けた……。
 スポーツライターによるノンフィクションではない。客観的な視点は本書にはない。プロ野球史上に残る試合の現場にいて、その日の観客の様子を生き生きと再現するのはバファローズの応援団長なのだ。本書のよさは、まさにそのファンの気持ちを包み隠さず主観的に描いているところにある。
 ひいきチームを応援するということは実に不思議なことだと、長年タイガースを応援してきた私は思う。ましてや応援団という、いわば自分の人生を他人を応援することに使ってしまうという生き方を理解できない人もいるだろう。本書では、他人の応援が自分の人生という生き方の面白さがストレートに描かれている。
 また本書は、読売ジャイアンツとは無縁なところで行われるプロ野球の面白さも描かれている。私の応援するタイガースも含め、セントラル・リーグではどうしてもジャイアンツという存在が中心となって動いていくということになる。しかし、本書に登場するファンは、なんとなくみんなが応援するからというような者は一人もおらず、いわば積極的にそのチームを応援することを決意したような人々なのだ。そういう人たちに囲まれた野球が面白くないわけがない。
 プロ野球史上に残る試合が行われた場の「空気」を描いた本書は、これまでにないタイプのノンフィクションである。ここでは選手の証言などよりもそこにいあわせた人々が何をどのように感じたかが重視されている。そして、それは著者の生き方にも重なるのだ。

(2003年9月5日読了)


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