放送作家である著者が、古今の「爆笑王」100組をピックアップし、寸評をつけている。古くは川上音二郎から現代の爆笑問題まで。東西を問わず芸
人を網羅している。その寸評は、特に東京の芸人や著者自身が目にした芸人については的確であり、蒙を啓かされる部分も多い。
ただし、著者が目にしていない芸人や、大阪の芸人に関しては、仕方のないことではあるが、いささか説得力を欠くことは免れ得ないだろう。例えば、シミキ
ンこと清水金一について書いた項など、「シミキンを知らない世代の人には……」とあるが、著者は1964年生まれで、シミキンを知らない世代の一人である
はずなのだ。少なくともリアルタイムでシミキンを見られたわけではないし、映像資料にも恵まれない芸人なのである。実際、あの小林信彦でさえ「シミキンは
ちゃんと見ていないので触れることができなかった」という主旨のことを名著「日本の喜劇人」で書いている。こうなると「あんたは見たんか!」とツッコミた
くなってくる。平和ラッパになると、私や著者の世代であれば相方の日佐丸は五代目(元・南秀児)しか見られていないはずだし、残されている映像や録音も五
代目のものがほとんどだ。であるにもかかわらず、著者は三代目の日佐丸(元・秋田Oスケ)のツッコミを「絶品だった」と断言する。著者はどこでその芸を見
たのだろうか。そこまで自信を持って書いていながら西条凡児の漫談について「凡児の往年の漫談のテープをお持ちの方がいたら、是非、お借りしたいくらいで
ある」と書く。凡児の漫談のテープは、近年大阪の朝日放送でかなりの量が発見されてラジオで放送されたというのに……。上方の芸人に関しては戸田学あたり
と分担して書いたほうがよりよいものができたのではないかと思う。
こういったアンバランスな部分はあるけれども、本書は芸人の人名事典として貴重なものであるとは思う。こういった本は最近ではあまり出ていないからだ。
特に若い世代で笑芸に関心のある人にはぜひ手元においておき、笑芸探求のきっかけとして使ってほしいと思う。
(2003年9月24日読了)