加茂家の総領、忠道は5人もの男性が惨殺された山里に調査に訪れる。しかし、忠道はそこで生き残りの少女に惑わされ彼女と交わる。彼女についてい
た淫鬼は忠道に乗り移り、都を目指す。忠道の弟、忠行は葛城山で修業中の身であったが、兄が行方不明になり、しかもそれが鬼にかかわるものという疑いが
あったため、直ちに現地に到着する。賢島で同様の事件が起こったことを知った忠行は、そこで鬼に乗組員を殺された外国船を調べ、兄を惑わせた鬼が異国から
やってきたものと知る。忠道にとり憑いた鬼は、大宰府に行き、菅原道真の墓をあばき、その恨みの力を利用して別の怨鬼を呼び出し、土人形の体をあたえた。
怨鬼は道真を騙って内裏の要人を殺し始める。忠行の叔父である忠峯、そして内裏を我が物にしようとたくらむ三善清行も加わり、都を舞台に鬼と術者の戦いが
始まろうとしていた……。
人間の淫らな部分を利用して鬼がとり憑くというアイデアを軸に、肩のこらないエンターテインメントに仕上がっている。夕刊紙の連載ということもあり、派
手な術合戦やユーモラスな鬼同士のやりとりなど、飽きさせない面白みはある。ここらあたりは作者の職人芸というところだろう。
ただ、それだけに人物造形やテーマなどにはあまり深みがなく、これまでの作者の「鬼」シリーズと比較すると陰影に欠ける恨みは残る。作品の性質上それを
求めるのが間違っているのかもしれないが。
(2003年9月28日読了)