読書感想文


打撃投手
澤宮優著
現代書館
2003年8月1日第1刷
定価2000円

 現在ではどのチームにもいる打撃練習専用の投手。これは日本のプロ野球だけの存在で、アメリカや韓国、台湾のプロ野球には存在しない。著者はジャ イアンツの川上哲治選手が自分の練習のために若手投手に投げさせたあたりから打撃練習用の投手という発想ができ、9連覇が始まった1960年代半ばから ジャイアンツに打撃投手が登場したことをつきとめる。ただし、当初は打撃投手も選手登録されていて一軍の試合に出ることも不可能ではなかったが、1970 年代の終わりごろから保有選手枠の関係で選手登録から外れた球団職員という身分で打撃投手が確立することを確認している。本書では、長島や王を支えた打撃 投手、そしてかつては一軍で華やかな活躍を見せエースと呼ばれたにもかかわらず現在では打撃投手をしている人々に直接取材し、その心構えや心境の変化など をていねいに紹介していく。
 日の当たらない裏方にスポットを当てた好著。しかも、取材は綿密で、一人の打撃投手を何年かにわたって追いかけ、その代わり具合などもきっちりとおさえ ている。
 ただ、惜しいのは、結局どの打撃投手の心境も結局は同じところに行き着くということを明らかにしながら、それをそのまま記すだけで、そこにあるプロ野球 界の問題点などを追求するところまではいっていないということ。つまり、よくいえば打撃投手列伝、悪くいうと打撃投手インタビューの羅列という感じで終 わってしまっているのである。
 せっかく、すばらしい着眼点で取材をしたのだから、その取材の結果に導き出されたものが何かを記してほしかった。上質のノンフィクションというものに は、必ずそれがあるのだ。あと一歩、そこに及ばなかったのが残念である。

 (2003年9月28日読了)


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