印南野市で連続して女性が殺害される事件が起こる。犯人は必ず女性の口の中に前の事件の新聞記事を入れておき、指紋も堂々と残している。しかし、
前科がないらしく指紋を照合しても犯人は特定できない。しかも、殺された女性にはほとんどといっていいほど共通点がない。彼女たちをつなぐ何か、それは犯
人自身ではないか。彼女たちの接点である人物の特定を急ぐ警察だったが……。
タイトルは、犯人が幽霊のようなものであるとして「ファントム」と名づけたところから由来する。まさしく、犯人は人々の心に残らない、陰の薄い人物であ
ると第一部から作者は明かしている。しかも、殺人事件は犯人がまさに幽霊でないと実行できないようなトリックが使われているのだ。
いつもの作者なら、ここでSF的なアイデアを盛り込んだり、論理のアクロバットを見せるのだが、本書ではそのような大胆さは見せない。あくまでも犯人の
印象の薄さと犯人がなぜ女性たちを殺害したかの不可解さを強調するという展開で物語りは進む。
読了後、なんとなく物足りなさを感じたのは、ミステリとしても心理小説としてもホラーとしても全てにおいて徹底したものがないからだろう。というか、ミ
ステリとして完成されたものでないのだ。そういう意味では、作者の意図が作品に徹底しきらなかった作品と考えていいだろう。凡作というわけではないが、作
者らしい冴えがないのは残念なことである。
(2003年10月3日読了)