読書感想文


あなたの人生の物語
テッド・チャン著
浅倉久志他訳
ハヤカワ文庫SF
2003年9月30日第1刷
定価940円

 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、星雲賞などに輝く諸作品が収録された著者の第一短編集。
 表題作「あなたの人生の物語」は、異星人とのファーストコンタクトのあと、その言語を学んだ女性が言語を身につけることによって新しい概念が開けていく 物語。「バビロンの塔」はバビロン王が建設する天に届く塔で作業をする男が行き着いた場所についての話。「理解」は脳に損傷を受けた人物が、その治療に よって天才的な思考力や記憶力を身につけていき、同じ境遇の天才と対決するという話。その他、〈名辞〉をつけることによって無生物にさえ生命を植えつけら れるというテクノロジーによるクローン生成を描く「七十二文字」、天使が降臨することによって受けた奇跡とその結果を悲喜こもごもに描く「地獄とは神の不 在なり」など、全部で8編が収められている。
 非凡なアイデアを極めて論理的に展開するのが特徴、といえるだろう。その論理構造の緻密さには驚かされる。ただ、論理的必然の結果をそのまま結末に持っ てくるという傾向があり、なにかひねりを加えて意外な結末に導いてほしいという欲求には応えてくれるわけではない。
 ストレートなSFを書くことを意図しながら、それが風刺小説としての骨格を持つにいたっているともいえるだろう。例えば「地獄とは神の不在なり」などが それにあたると思う。ただ、やはりキリスト教国の作家の書くものだけに、神への不信というテーマをどうしてこういうもってまわった物語にする必要があるの かなどといういらぬ思いを抱いてしまったりもする。
 各編を読み終わるごとに、私は「ここからが面白くなりそうなのに」という感想を抱いていた。結末が中途半端、というわけではない。なるほどやはりこうな るのかという必然的な結末に導かれるのだから。しかし、その必然に疑いを持たせた上で驚いたりうならされたりする結末に持っていってくれたらなあ、という 思いが残ったのだ。
 私の読み癖とはちょっと相性がよくないのかな、などとも思う。
 

 (2003年10月7日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る