地図にも載っていなければ旅行者向けの案内書にも載っていない小さな45の国を舞台にした45編の物語。いわば書き下ろしショートショート集とい
うところか。
ただ、この45編、ただのショートショートではない。寓話かと思えば、教訓めいたものはないし、かといってひねりの聞いた落ちがあるかというと予想して
いたものとは全く違う妙な結末に連れて行かれる。
なんとも不思議な物語の数々である。ここでは常識が私たちの日常から幾分ずれているかのようだ。かといって、全くの非常識というわけでもない。おとぎ話
のようなものかと思うと、妙に現実的である。それが作者独特の文体とあいまって、何か変な感覚に誘いこまれる。
しかし、おもしろい。その妙な感覚が、不思議に楽しいのだ。作者は意識してこういう妙な感覚を作り出しているのではないのだろうと思う。作為的な匂いが
あまりしないのである。中には「地図にも載っていなければ旅行者向けの案内書にも載っていない」という理由だけを延々と書いた話もあったりするから、作者
は書いているうちにふと日常に戻ったりもしているのかなという気もする。
「奇書」とはこういう本のことをいうのではないだろうか。つくづく異能作家であると思う。
(2003年10月14日読了)