大阪近鉄バファローズの東京応援団長である著者の自伝的エッセイ。
北海道在住の少年が野球ゲームを通じて興味を持ったのが阪急ブレーブスというチームだった。ブレーブスのファンになった少年は、仏頂面の熱血監督にファ
ンレターを出す。その返事が返ってきたときに、少年の運命は決まった。彼は高校を卒業すると関東の大学に進学し、東京の球場でブレーブスを応援する。そし
て、試合が終わってバスに乗り込もうとする監督に始めてあいさつする。監督は彼に試合に来るときは連絡をしてくれれば席を取っておくと、声をかけた。監督
の名は西本幸雄。そして幸運なファンの名は佐野正幸……著者である。以降、彼はブレーブスの応援団に混じって応援をするようになるが、再三日本一を逃した
西本監督はとうとう退団してしまう。そして、敵である近鉄バファローズの監督になるのだ。悩みながらもバファローズのファンに転向することを決めた著者
は、西本監督のコネクションで東京の近鉄百貨店に入社、社内でバファローズ応援団を作り、三塁側のスタンドで応援をリードするようになる。著者は西本監督
が日本シリーズで優勝するまで結婚しないでおこうと誓いを立てるが……。
これまでの著作で断片的に書かれていた著者のファン歴が本書で一つにつながった。ここで描かれる著者の生き方は、他人を応援することで成り立つという考
えてみれば不思議なものである。しかも、それはいわば一通の手紙から始まったわけで、いくら著者が自分で選び取った道だとはいえ、人の生き方の妙味みたい
なものを感じずにはおられない。
ただ、前述したように本書に書かれていることはその多くが断片的にこれまでの著書で読んでおり、本書はそれを再確認するというようなものになっている。
著者の書いた野球小説などもあるようだが、ここまでの著作を読む限り、実体験を超える創作になっているかどうかと思わずにはいられない。
応援団という立場で長年培ってきたもののメリットもあれば、デメリットもあるのだろうと感じた次第である。
(2003年10月16日読了)