プレイステーション用のゲームを小説化したもの。
昭和のはじめに起きた「キネマ屋敷連続殺人事件」を取材していた新聞記者の影谷は、事件の鍵が書かれた手帳を持った尚美という女性と、「キネマ屋敷」のあった瀬戸内海の島へおもむく。ところが、屋敷跡で光に包まれた彼は、タイムスリップを起こし、事件の当事者の一人である七瀬和弥という人物として事件のまっただ中に飛び込んでしまう。毒入りのワインを飲まされて死んだ映画監督、芳野堂伝衛門。その遺言を聞くために集まった子どもたち。和弥は伝衛門が愛人に産ませた子どもだった。和弥の目の前で次々と起こる孤島での殺人。そこに現れたのは尚美の祖父で手帳の持ち主であった片桐光太郎である。片桐は名探偵よろしく事件の推理にあたる。片桐と和弥が謎を解いた時に現れた謎の人物とは。
ゲーム自体をしていないのでどこからがゲームのシナリオで、どこからが作者の独創なのかは、私には判然としない。しかし、戦前の探偵小説を思わせる孤島の連続殺人という設定はゲームのシナリオであっても、その解決には作者のアイデアがかなり強く打ち出されているものと推測される。なぜならば、そこだけがゲーム的ではないからなのだ。タイムスリップという設定がゲームのものだったとしても、それを小説として昇華させたのは作者に違いないと思われる。
タイムスリップするのはゲームのプレイヤー。殺人を犯す本当の存在はゲームマスター(この場合はシナリオライターか)。そういう実際の状況を小説の中ではっきりさせている。ここらあたりの構成がうまい。殺人事件そのものはプロトタイプという感があるが、それをゲームとしてプレーする者とそのシナリオを用意する者の視点からとらえ、量子論的なアイデアを加える。それにより、凡庸な探偵小説が現実と遊戯の境界をさまようSF小説としてみがきあげられた。そんな小説である。ゲームのシナリオをここまでなんとかもっていった作者の力量をほめるべきだろう。
(2003年10月27日読了)