戦前のプロ野球チーム、大東京を買い取って「ライオン軍」のオーナーとなり、戦後はパシフィック、太陽ロビンス、二リーグ分裂後は松竹ロビンスのオーナーをつとめた大阪船場の繊維会社社長、田村駒治郎を描いたノンフィクション。
田村駒治郎はプロ野球黎明期にアメリカに外遊し、大リーグのオーナーやプロ野球というものの社会的地位を目のあたりにし、自分もそういう存在になりたいと願う。彼は学生時代から野球というスポーツに親しみ、野球そのものが好きな男だったのだ。しかし、正力松太郎が主導する日本のプロ野球界は、チームや選手を企業の広告媒体としかみなさない者たちによって経営され、田村がアメリカで知った理念などは全く持ち合わせていないのである。そして、戦後の特需景気が崩壊したあと、田村の本社自体が経営不振に陥り、野球チーム経営から手をひかざるを得なくなる。
本書を通じて描かれるのは、戦後の混乱の状況、プロスポーツ経営の理念と現実というものなのだが、私が興味深く感じたのは、船場の旦那衆というものの行動や意識がくっきりと描き出されていることだ。著者はそのつもりはなかったのだろうが、田村駒治郎という人物は良くも悪くも「旦那」であり、その生涯をたどることは、「旦那」という存在を描くことに他ならないのである。
もちろん、徹底した取材と巧みな語り口で、本書はプロ野球の問題点を浮き彫りにしている。戦前、そして戦後の混乱期も、現在も、プロ野球の抱えている本質的な問題点は全く変わっていないことに驚かされる。
救いは、田村駒治郎という人物が心から野球を愛しているということだ。そして、けっして野球を愛していない人物たち……正力松太郎、鈴木竜二という曲者たちがプロ野球を自分たちの持ち物として小賢しく動かそうとする時、田村が突然高邁な理念を語りだし、彼らは反論できない、そういうシーンが随所に出てくる。悲劇は、こういう人物がプロ野球の機構からは異端児扱いされるところにあるのだ。
(2003年10月29日読了)