本書は、時代とともに移り変わっていく命名の流行を追い、その時々の時代の状況を探っていこうという試みである。また、明治になって平民にも姓をつけるようにという命令で新たにつけられた姓から時代を読み解いてもいる。
近代になると、生命保険会社がかなりきめ細かい調査をしているので、大正、昭和戦前、戦中、戦後、高度経済成長期、現在とその変遷を追うことができる。明治維新以前は男性の場合、幼名、本名、字、号など複数の名前を使い分けていたが、明治以降は本名中心となったことによる意識の変化があったりする。あるいは、現在は「ゆうき」「ゆい」など読みは同じでも表記は様々な名前が主流であることから、文字文化から映像文化に変化してきた現代人の感覚がわかってくる。
自分のルーツを探りたいという気持ちもあってか、「姓」に関する本はかなり多いけれど、個人を識別する「名前」をこのように分析したものは以外と少ない。愛書家で知られる著者がその知識や教養をつかって興味深いテーマに挑戦したというところだが、この試みはほぼ成功しているといえるだろう。
私は教員もしているので、最近の子どもの名前の難読の多いのは実感としてわかってはいたが、こうやってその変遷を突きつけられると、名前をつけるという行為に含まれる親のエゴがよく見えてきて、いろいろと考えさせられるところが多かった。
(2003年11月16日読了)