読書感想文


やすし・きよしと過ごした日々
木村政雄著
文藝春秋
2003年11月15日第1刷
定価1400円

 著者は吉本興業のもと常務。80年代のマンザイブームの時には東京事務所の責任者として吉本興業の全国戦略の最先端をになった人物である。そのキャリアは京都花月の事務職からスタートしたが、すぐに横山やすし・西川きよしのマネージャーとなっている。本書では、そのような自分の経歴と重ね合わせながらやすし・きよしの実像を回想したものである。
 ここでは、現場にいたものにしかわからない、漫才師の芸の変遷が描き出されている。上り坂の時代、頂点の時代、新しい道を模索する時代、そして凋落の時代……。
 横山やすしはむろん芸名である。西川きよしも芸名であるが、本名のうち一部をひらがなにしただけである。著者は、その違いが二人の運命を分けたと分析する。実はここが本書のユニークなところなのだ。つまり、やすしは本名の木村雄二である時と、芸名の横山やすしである時の使い分けをしなければならなかった。芸人横山やすしのイメージをなぞることにより、自らを縛りつけることになってしまう。対するきよしは国会議員となっても西川潔、つまり音では変わらない名前を呼ばれている。きよしはいつでも西川きよしであり、虚像を無理に作り上げる必要はない。
 これこそ、二人の実像を間近に見ることのできた著者ならではの分析だろう。本書は、マンザイブームをきっかけに全国区にのしあがっていく吉本興業と、その戦略の中で自分のキャラクターを維持していかなければならない芸人たちの戦いの記録といえるかしれない。
 上方演芸に関する貴重な証言が、ここにまたひとつ加わった。しかも、笑いを作る立場ではなく、それをコントロールしていく立場の者による証言でなのある。

(2003年11月16日読了)


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