読書感想文


フリーターという生き方
小杉礼子著
勁草書房
2003年3月15日第1刷
定価2000円

 リクルート社のアルバイト情報誌が、就職せずにアルバイトをして生きるライフスタイルとして命名した「フリーター」。当時は夢を追う者が自分の生き方を模索してとる道の一つとしていい意味で使われたものであった。しかし、慢性的な不景気が続くこの10年、フリーターという生き方は必ずしも肯定的にはとらえられなくなっている。では、フリーターという生き方とはどういうものなのか。
 本書は、基礎的なデータを積み上げ、フリーターについて多面的にとらえた研究書である。ここで著者はフリーターを「モラトリアム型」「夢追求型」「やむを得ず型」の3つに大きく分類する。不景気の現在は「やむを得ず型」が増加している一方で、問題を先送りしている「モラトリアム型」も根強く残っていると指摘する。
 さらに、高卒、そして低偏差値の大学の卒業生にフリーターが多い傾向があるという調査結果も紹介し、確固たる展望のないまま社会に出ていく学生たちに対し、かなり批判的な視線でこの結果を分析する。
 確かに、社会人としてフリーターというものは不安定であり、特に何の見通しもないままアルバイトを渡り歩く者を批判することはたやすい。しかし、そういう者を生み出す社会的背景に対する切り取り方が、本書では経済的な面を全面に出しているという点に留意したい。経済的な面だけではなく、文化的な面からも現在の社会は閉息的になっている。あるいは、社会における階層の差が年々はっきりとしているという実態もある。その中で展望を見い出し得ず、フリーターという形でしか生きられない者もいるのではないか。
 そういった一面的な切り取り方をしてる分は気になるが、統計的にフリーターの実態を明らかにしているという部分では、本書は貴重なレポートといえるだろう。さらに、アンケート調査によりフリーターたちの生の声を数多く収録している点も興味深い。このデータをもとに、フリーターというものについて読み手がそれぞれの立場で考えるきっかけになる。そういう一冊なのである。

(2003年11月19日読了)


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