フランス倫理学を専門とする研究者である著者が、自分のウェブサイトの日記などで書いた雑感や、出版社のウェブサイトで連載した夏目漱石の文学から見た「大人」になることに関する考察を一冊にまとめたもの。
雑感の部分は、書き散らしたという印象を与えるものもあるけれど、極端な例を出したり、ちょっと斜に構えたような態度、またはどんと正面から時事問題にぶち当たるなど、あの手この手で現代というものを切り取ってみせてくれる。夏目漱石の小説から「大人」というものを考察した文章では、明治維新が我が国にもたらした「近代」の本質を明解にした上で私たちが「大人」になるにはどうすべきか、あるいは何をしてはいけないかを示唆する。
タイトルは「おじさん」であるけれど、理屈にあわない説教を垂れ流すのではなく、またとくとくと自分自慢をするのでもない。そこらあたりに好感を持った。大学教授らしい浮き世離れしたところは確かにあるけれど、バランスのとれた思考法は、物の見方ということについていろいろと参考になる。
ただし、こういうタイプの本はハードカバーではなく文庫などの方がふさわしいのではないかと思う。肩のこらない読み物という体裁をとりながら、わかりやすく本質を押さえてくれる、こういう文章はもっと多くの人の手に渡りやすい形体にした方がよいと思うのである。
(2003年11月29日読了)