読書感想文


 ジャー 上
柴田よしき著
トクマ・ノベルズ
2003年11月30日第1刷
定価895円

 京都の女子大に通う加々見舞子は、兄に憧れるあまり兄嫁とその胎内に宿ったまだ生まれてもこない甥に憎しみに似た感情を抱いてしまう。ボーイフレンドの陽一と宝ヶ池でデートをしている時に、池の中から彼女の願いをかなえるという声がする。その時はなんとも思わなかった舞子だったが、実際に甥が産まれて愛情を感じ始めた時に、彼女の約束をかなえると言った存在がその甥をどこかにさらっていってしまうと、自分の勝手な憎しみを後悔する。宝ヶ池で見たピンクの龍。彼女と陽一は再び宝ヶ池に行き、その龍と接触するが、竜巻きに巻き込まれた陽一は行方不明になってしまう。舞子が龍を見ることができたという情報を得た写真家の中西空が彼女に接触してきた。琵琶湖へ行き竹生島まで龍を探しに行く2人。さらに加わったのは滋賀県警の音無刑事。彼は龍の子どもと思われる死体について調査していたが、その際にピンクの龍を目撃していた。しかし、まわりのものは相手にしてくれない。3人は竹生島で龍に遭遇するが、舞子は龍にくっついて消えてしまった。龍の尻尾で陽一と再会した彼女が行き着いた先は、戦国時代の琵琶湖畔だった……。
 環境問題をテーマに、自然の象徴である龍と、その存在を感知できる人々の織り成す交流を描いたファンタジー。龍の存在は「炎都」シリーズのゲッコーを思わせる。本書は大きく広がり過ぎた「炎都」シリーズを少しコンパクトにしたものなのかもしれない。
 初出は新聞連載である。ふだんファンタジーやSFを読まない人々に対してもわかりやすいように、大胆な飛躍は避けているように思われる。また、メッセージもかなりストレートに書いてあり、逆にこうやって単行本にまとめられるとそれが少しうるさく感じられる。
 物語は、多くの謎の手がかりを残したまま、下巻に続く。龍に乗って時間旅行をした主人公たちはどのようにして龍とわかりあい、また現代に帰ってくるのか。期待して読みたい。

(2003年12月2日読了)


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