著者は月刊誌「上方芸能」の編集長。長年現場で取材をしてきた伝統芸能の魅力について書き記したものである。
第一部では、江戸時代の京都、大坂、江戸の三都を比較し、その気質によって生まれた芸能の違いを解説したあと、京舞、狂言、文楽、歌舞伎、落語などの歴史を明治、大正、昭和に至るまで活写する。そして、戦争によっていったん中断しかけたこれらの伝統が、戦後どのように復興していったかを、第二部で記していく。
第二部では、歌舞伎の三世中村鴈治郎、文楽の人形遣吉田玉男、狂言の三世茂山千作、落語の三代目桂米朝という人間国宝たちの小伝を綴っていく。彼らの芸に対する真摯な姿勢が、上方の伝統芸能を支えてきた様子がくわしくわかる。もちろん、彼らはそれぞれの分野の代表であって、彼らだけがその芸を支えていたわけではない。そのことを誰よりも理解しているのは著者だろう。その上で、第一人者の素晴らしさを語っているのである。
本書は、上方の伝統芸能の入門編としてうってつけの好著である。これらの芸能に少しでも関心を示した時に本書を読めば、その魅力の深さの一端を感じとることができるだろう。そして、さらに生の舞台を見たいと思うようになるに違いない。
著者の芸能に対する深い愛情が感じられる一冊である。
(2003年12月13日読了)