プロ野球選手としては二流以下の成績しか残さず、監督としても目立った実績はない。しかし、フロント入りするや、スカウト、そしてトレードの仕掛人として凄腕を発揮した男。それが根本陸夫という人物である。
プロ入りするまでの経歴は、いささかごたごたしている。日大の野球部に所属したていかと思うと、立教大にいたという理由で出場停止処分となり、法大に転学して出場している。戦後のゴタゴタの時期とはいえ、なぜこういう複雑な球歴をたどったのか。著者たちはベテランのスポーツ記者であるが、そこまではわからなかったらしい。いや、四半世紀前に私が読んだ近藤唯之の「阪神サムライ物語」でもその事情は不明だとあの近藤氏が書いているのだから、今となっては調べようもないのだろう。しかし、根本がそこで培った人脈が、後年いろいろなところで生きてくるのも事実である。
根本こそは日本で初めての「ゼネラル・マネージャー」と呼んでよい人物だったといえる。チームの設計図を書き、有望な人材を獲得し、あとは現場の監督に任せる。そのシステムをライオンズ、ホークスで確立したのである。しかし、根本を過小評価したフロントは、チーム建設が軌道に乗るとその存在を煙たがってしまう。
存命であれば、現在のジャイアンツの横暴を極めて巧妙に牽制し得た人物だというように、本書を読んでますます強く感じた。野球が好きで、人間が好きで、権勢欲がない。こういう人物が疎んじられ、ナベツネ氏のような人物に球界が引きずられている現状を、ファンとして悲しく思う。
根本陸夫の実像をできるだけ明らかにしようとした労作である。
(2003年12月16日読了)