2003年11月に亡くなった著者の代表作2編を収めた一冊。
「猫の舌に釘をうて」は、主人公が探偵であり、犯人であり、被害者であるという条件をいかに満たすことができるかという作者の冒険心がみごと結実したもの。実験作にとどまらず、1960年代はじめの風俗や人々の生活がきっちりと描かれており、また、人間の心理を鋭くえぐる展開ということもあり、小説としても完成度の高い作品である。
「三重露出」は翻訳家が新しく訳した小説の中に登場する人物の名前に知っている女性のものがあったことから話が始まる。その女性は、殺人事件で死んでおりその犯人は見つかっていない。その作品「三重露出」と、翻訳家が犯人探しをするという部分が順に並ぶという構成で、2つの小説を一つのものとして描き切るという腕に感服。外国作品は日本に来ているアメリカ人が忍術を駆使する女性たちや、さらには極道たちとフィルムをめぐって戦う話で、この作品のいかがわしさも絶品。
まさに戦後のミステリを牽引していった作者の力量をはっきり示す作品群である。最近は光文社文庫で傑作集がまとめられており、本書も(別々な本にわけられているが)容易に入手できる。しかし、このカップリングは作者の初めての選集に収録された時のもので、本書ももちろん生前に刊行されているわけであるから、この形でまとめられていることに、作者なりのこだわりがあるのだろう。
そこに隠された意図は解説で中野康太郎さんが読み解いているが、この解説も都筑道夫という作家の作品を知る上で貴重なものとなっている。
(2003年12月23日読了)