東京の大学に通う敏也は、就職活動にも身が入らない。重い帽子をかぶって空をとぶ夢のせいである。実は、彼は空を飛べるのだ。ただし、10センチだけ浮かぶことができるというささやかなものなのだが。彼はいつも聞いているラジオ番組、「夏野めぐみのラジオ・ラジオ・ラジオ」にこの悩みを葉書に書いて出した。めぐみが葉書を読んだ時、彼は少年時代にタイムスリップする。彼に空を飛ぶことを教えた少年が存在したことを思い出し、彼は故郷に帰って自分に空を飛ぶことを教えた少年の消息を探ることにする。自分の頭に覆いかぶさっている「重い帽子」を取り除くために……。
大空を飛ぶのではなく、10センチだけ浮くというところが、この物語のポイントである。つまり、役にたたない能力なのだ。しかし、役にたたないというのがいったいどういうことなのか。本書で作者は、役にたたないものに対する考え方を示している。それが一見とるに足らないもので役にたたないように見えても、本人にとって大切なものであれば、それは素晴らしいものなのだ。
主人公が就職活動に身が入らないのは、モラトリアム的なものである。そして、少年時代の原点に帰ることにより、「夢」のありかを取り戻す。この作品は、作者がデビュー以来描いてきた、何かを探す者の系譜につながるものである。デビュー作「ダブ(エ)ストン街道」の系列においていいだろう。そういう意味では、作者の原点回帰といえるかもしれない。
(2003年12月24日読了)