古代ギリシア哲学の研究者である著者が、ヨーロッパ思想の源流であるギリシア哲学、ユダヤ教〜キリスト教の基本的な考え方を個々の哲学者や宗教家の考え方を取り上げる形で解説する。そして、それらの影響下に発達したキリスト教哲学、理性主義、経験主義、社会学、実存主義をとりあげ、それらがどのように展開されていったかを示す。
高校生を読者対象としている新書ではあるが、文章はかなり専門的な言い回しを多用し、一読しただけでは内容を理解するのは少し難しいように感じられた。なによりも、とりあげた思想が相反したものであっても、それぞれの正当性を訴えるような記述をしているので、その矛盾に気がついた読者は、作者がどういうスタンスで本書を書いたのか、とまどうのではないかと思われる。唯一批判的なのは社会主義に対してだけであるが、これも現実に失敗したために批判できるという理由で書かれている。制度としての社会主義は失敗したが、社会主義の思想を是とした時代もあったのだから、ローマの現実主義の前に屈服したギリシア哲学もまた、同様に批判されるべきだろう。
ロールズ、レヴィナスという一般的には馴染みの薄い思想家をピックアップする一方で、構造主義に関しては一切無視しているという点も気になる。「ヨーロッパ思想入門」と銘打っているのだから、実存主義で打ち切ってしまったのでは、現代思想の潮流を把握しようと思って手にとった若い読者に対していささか不親切といわざるを得ない。
内容的には、かなりよく考えられたものではあるが、入門書というよりは、入門した次の段階で読むべきものではないかと感じた。「ヨーロッパ思想の源流」というタイトルであれば、内容にも合致しているのではないかと思うのだが。
(2003年12月26日読了)