シリーズ第40冊目となる久々の本伝の長編。
魔界都市新宿の、特に危険な地域である新宿二丁目に現れた姉妹とその母親。実は、姉と称する美冬は小国の王妃であり、弟と称する修羅は彼女の護衛係、母と称する理世子は王妃の教育係であった。石油にまつわる利権のからんだクーデターで国を追われた王妃は、身を隠すのに魔界都市を選んだのだ。彼女の追っ手は魔界都市のレギュラーメンバーも震撼する奇怪な能力の持ち主〈血の五本指〉たち。理世子の居場所を探すように求められた秋せつら。せっかく発見をしてメフィスト医院にかくまったものの、依頼者の朝比奈代議士とともに理世子は〈血の五本指〉によって亡きものにされてしまう。また、魔界医師メフィストですら暗殺者の手にかかってしまう。美冬に惚れてしまった地上げ屋の笛吹童子の依頼で、せつらは美冬を護衛することになるが、真に美しい美冬に、なんとせつらも恋に落ちてしまう。強力な敵の前に、水月豹馬、屍刑四郎、夜香、トンブ・ヌーレンブルク、外谷さんら魔界都市の最強メンバーたちも危地にさらされる。果たして壮絶な戦いの勝者はどちらか、そして、せつらに隠された第3の人格とは……。
せつらの恋物語である。あの秋せつらの心をとろかせるのだから、ただ美しいだけではダメである。誰もが彼女のために尽くしたくなるような、そして、彼女自身も清らかで自分を捨てて全てのものを思いやれるような、そのような女性でなくてはならない。女性ファンを嫉妬に追い込むような女性が、美冬である。作者は、美冬の外見に関してはあまり微細な描写を避けており、読者の想像力にまかせている。ただ、彼女に接した者たちの反応から彼女の魅力を推し量れるようにするのみである。真に美しいものは、言葉にすることはできないものなのである。
これまでも非常に特異な必殺技を持つ敵を創造してきた作者だが、今回の敵は決定版といえるほどの技を繰り出してくる。なにしろ、せつらの妖糸が通用しない相手なのだ。したがって、今後はおそらく強力な敵と戦うという展開よりも、本書で発露したせつらの第3の人格と、新たな魔震に関わるエピソードが主体となることが予想される。また、それを匂わせる描写が随所に出てくる。
そういう意味では、本書はこれまでの展開の決定版となるものだろうし、ここから新たなる魔震に関するエピソードが始まると期待したい。
シリーズの五指に入る力作である。
(2003年12月31日読了)