読書感想文


哲学ってなんだ 自分と社会を知る
竹田青嗣著
岩波ジュニア新書
2002年11月20日第1刷
定価740円

 高校生向けの哲学入門書。ただし、単に哲学史と哲学者の思想を書き並べたものではなく、タイトル通り、「哲学とは何か」という本質的なものをわかりやすくまとめたものである。
 実は、「哲学」に関しては、この「わかりやすく」ということが難しい。特に近代哲学には哲学者の造語も多く、それを邦訳する段階でさらに意味がわからなくなったというようなものがほとんどである。
 著者は、自分が哲学にひかれていった経緯を書き記すことで、読者との視線を合わせることに成功している。そして、自分なりに理解した哲学の本質は、一般に定義されている「真理を求める」ということではなく、「普遍性のある原理を求める」ということだと論じる。そして、「自己と他者の関係性」をキーワードに、哲学は「自分と社会を知る」ための手がかりとなるものだということを提示する。
 本書が優れた入門書である点は、そのわかりやすさだけではない。本書によって哲学の入り口に立った者に対して、「あとは自分で探しなさい」と次のステップへの橋渡しをして結んでいるところにある。入門書の多くは哲学者の思想を図解などで示すだけで、それで読者になんとなくわかった気にさせる。しかし、本書はそうではない。哲学的なものの考え方についてはポイントを押さえた解説をしているのだが、哲学者それぞれの思想についてはこれを手がかりにして自分で考えよ、とある意味では突き放しさえしているのだ。
 自分が高校時代に本書のような本に出会っていたとしたら、もっと別な哲学の楽しみ方を追究しようとしていたに違いない。自己啓発セミナーになんか行くよりも、本書を読みなさい、と薦めたい。自己を啓発できるのは、自分自身が考え、そして自分の周囲の人々と話をしていくしかないからなのである。その方法は、本書にちゃんと記されているのだ。

(2004年1月5日読了)


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