読書感想文


太陽の塔
森見登美彦著
新潮社
2003年12月20日第1刷
定価1300円

 第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
 京都大学の農学部に在籍する学生が主人公。彼は恋人にふられ、それでも彼女に対する研究のために彼女の行動を追いかけ続けている。彼の友人たちは全て女性に縁がなく、近づきつつあるクリスマスを憎んでいる。彼の元恋人の新しい男とストーカーをやりあったり、友人たちと痛飲したりという日々を送り、いよいよクリスマス・イヴがやってくる。この憎むべき行事を無意味にするための計画が、彼らの間には着々と進んでいたのであった。
 こういう紹介の仕方をすると、何の変哲もない青春小説という感じになってしまうが、実はそうではない。まず、その理屈っぽく比喩を多用した文体に驚かされる。この文体が、非常に面白い。笑わせるのである。文章そのもので笑わせるというこのテクニックは、天性のものなのか、それとも意識して使っているものなのか。さらに、この主人公の理屈は、奇妙にねじまがっている。常人のものではない。しかし、狂的とも決めつけられない。そのあたりの微妙なラインを踏みつつ、物語はだんだん異様な世界に少しずつずれていってしまう。そして、気がつけば主人公の妄想の世界に読者は引きずり込まれてしまうのである。
 舞台は京都で、しかも私が青少年の時期を過ごした懐かしい町ばかり。そして、極めつけは太陽の塔で、私は数年間毎日のように太陽の塔をモノレールから眺めながら通勤したものだ。だから、本書で扱われている太陽の塔の異様な存在感が実感できる。あの、公園にぬっと立っている不思議な建造物が、作者の感性を刺激したのだろう。京都の、しかも左京の一部が舞台の話のに、なぜか太陽の塔なのだ。このギャップがたまらない。
 不思議な作品である。そして、強烈な文体で、強烈な笑いを喚起する作品である。これでデビューしたということは……。次作はどうなるのか。楽しみのような、怖いような。

(2004年1月6日読了)


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