沖縄に住む高校生の嘉和騎央の家に転がり込んできた美少女には、猫の耳と尻尾が生えていた。彼女は友好的にコンタクトをとろうと地球にやってきた異星人だったのだ。猫耳異星人のエリスは、好奇心たっぷりで地球のことを調べていく。ところが、ハードSF的ファーストコンタクト以外は認めない秘密結社、政府の入国管理局、米軍基地のCIAなどがこの平和で友好的なエリスを消し去ろうとしていた。しかも、それら各団体には、騎央の部顧問の先生、同級生、幼なじみが関係していたのだ。米軍基地にとらわれたエリスを助けようと、気弱な高校生だった騎央は敢然と立ち上がる……。
猫耳宇宙人、偶然にも地球人と同じような進化をとげている、使う言語は偶然にも日本語と同じ。さらに、高校生の女の子が武装して登場したり、日本政府を影で操る勢力らしきものがあったり……。この設定とストーリー展開は、普通に考えると陳腐でご都合主義的なものであろう。
しかし、読了後、私はそれほど腹がたつこともなかった。なぜならば、この陳腐さやバカバカしさを作者はちゃんとわかった上で、確信犯的にの物語を書いていることが読んでいるうちに感じとれたからである。作者は、こういう設定の小説を書きたかったから、書いたのだろう。だから、登場人物の一人一人はとても大切に描かれ、結末も実に気持ちのよい終わり方をしている。「愛」を感じるというと大げさか。しかし、適当な設定で適当にキャラクターを動かしただけのものであれば、読んでいるうちにそのことがわかるのである。
もう一つ感じた「愛」は、沖縄に対するものである。これまでの作者の小説にも沖縄への愛情が感じられた。そして、本書で描写される沖縄の料理や風景は、これまで以上に細やかで、愛着を感じさせるものなのである。
作品に対する愛着を作者自身が持てるかどうか。面白い物語とそうでないものを分ける分岐点かもしれない。
(2004年1月9日読了)