第二次世界大戦末期、満州国牡丹江で造り酒屋を経営する森田一家に危機が迫っていた。日ソ不可侵条約を破ったソ連軍が満州の国境を超えて攻め込んできたのだ。主人の勇太郎は新京に出張していて不在。妻の波子は、長女の美咲と次男の公平、そして使用人3人を連れて、牡丹江を脱出する。関東軍の軍人やその家族が乗る避難列車は、中国人やソ連軍に何度も襲われ、波子たちはそれでも九死に一生を得る。ハルピンまでたどりついた波子たちを待っていてのは敗戦の報であった。若い女を陵辱するソ連兵の手から逃げ、収容所にたどりついた波子たちは、やっとのことで勇太郎と再会する。物語は、北海道の小樽で勇太郎と波子が初めて会った日にさかのぼり、二人の満州に移住へと進んでいく。
作者が実母をモデルにして書いた長編の前編。数多く得たものを投げ捨てて、誇りも何もかも失ってなお生き抜こうとする主人公、波子。その生への執着のすさまじさが、詳細に描かれた満州の風景と重なっていく。また、建国間もない満州の欺瞞に満ちた繁栄の過程が描かれることにより、その転落のメロディのもの悲しさ、虚しさが伝わっていく。
敗戦を迎え、家族の無事を知った夫が生気を失っていく様子などは、敗戦国となった日本そのものを象徴するようだ。戦後、どのように主人公や子どもたちが生きていくのか。下巻も楽しみである。
(2004年1月15日読了)