読書感想文


歴史学ってなんだ?
小田中直樹著
PHP新書
2004年2月2日第1刷
定価680円

 歴史学とは何のためにあるのか。根源的な問いかけにたいして誠実に答えようとしたのが本書である。著者はまず、歴史の学術書や解説書と歴史小説の違いとは何かを考える。それをとば口にして、歴史学が実証の学問であること、史料の確からしさを検証しながら過去の実相に迫るという方法を取ることなどを解説していく。そして、歴史教科書がなぜ面白くないのか、「自由主義史観」なるものの新しさとは何かなど、歴史学に関心はあるが当事者ではないというような読者の素朴な疑問に答えながら、「役に立つ歴史学」とはどういうものかを探っていく。
 歴史というのは、文献や文化財などをもとに歴史の真実を再構築していく学問である。高校や中学の教科書が味気ないのは、その再構築していく過程をすっ飛ばして結果だけしか書かれないからなのである。また、「自由主義史観」が構造論的な視点から「物語としての歴史」を目指しているのに対し、物語性とは遠いところに歴史学はあるのだということを立証していく。また、歴史学が社会の役に立とうとすると、結局は歴史の実像をゆがめ、例えば政府の役に立つ歴史を作り上げるというような方向に行く危険性をはらんでいると指摘する。
 だから、歴史学者は意識的に役に立てようとすべきではないというのが、どうやら著者の言いたいところらしい。というのも、著者はここで断言を避けているからだ。断言するためには、その根拠をきっちりと洗い直さなければならないという歴史学者の方法が、断言を避けるような書き方に結びつくのだろう。
 歴史学者が情熱を注いで研究した結果を役に立てるのは、その結果を本で読んだりした読者次第なのだ。それは、現代社会への批判の根拠としてでもよいし、自分のものの考え方を見直す手段としてでもよい。
 これは歴史学の問題だけではないだろう。医学、理学、工学などの基礎研究も役に立てることのみを目的としていたのでは成立しないだろうし、それを土台にして実利的な開発が進むのだから。そう考えると、本書は「歴史学」のあり方という問いかけを通じて「学問」そのものの意味を問い直しているといえるだろう。

(2004年1月27日読了)


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