読書感想文


信長と十字架−「天下布武」の真実を追う
立花京子著
集英社新書
2004年1月21日第1刷
定価740円

 織田信長が自分の印として使用した「天下布武」の意味は、自分が天下を取るという意味ではなく武力を用いて天皇のために平和をもたらすという意味だった。朝廷、足利義昭らと織田信長を結びつけた文人や武士たちはイエズス会のバテレンたちにつながる人脈を持っていた。信長はイエズス会に代表されるスペイン、ポルトガルといった南欧勢力のアジア戦略の道具として目をつけられ、信長の力に限界を感じた時、南欧勢力は明智光秀と羽柴秀吉を用いて信長を排した。南欧勢力の戦略は秀吉の代になって成就した。
 様々な文献を「南欧勢力」との関係という視点で洗い直し、キリシタンによる織田信長の「天下布武」という新たな図式を提示した野心的な試みである。着眼点は面白く、その推理の切れ味もよい。
 しかし、どうも「陰謀史観」的な展開になってしまうことと、全てを南欧勢力の仕業にしてしまおうという強引な論の進め方で、いささか説得力を欠くように感じられたのも事実である。
 新説としては面白いが、もっときめ細かい裏づけがなければ本書に書かれた内容が定説となるのは難しいだろう。まず「南欧勢力の陰謀」ありという、この前提を捨ててかかった上でなおかつ文献からそれらの陰謀が浮き上がってくるというところまでいって、本書の新説はリアリティを持つのではないだろうか。

(2004年1月30日読了)


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