読書感想文


ヒトは環境を壊す動物である
小田亮著
ちくま新書
2004年1月10日第1刷
定価680円

 環境破壊とはなんだろうか。「地球に優しい」という文言は正しいのか。人間はなぜ環境を破壊するのか。霊長類の研究者である著者が、進化論をベースにヒトという生き物の性質を明らかにし、そこから環境破壊という現実的な問題に切り込んでいく。
 著者は、環境破壊というがそれは人間にとっての環境破壊であって、その結果人間が滅亡したとしてもバクテリアが生き残る環境が残っていれば、バクテリアにとっては環境破壊とはいえないのではないかと疑問を呈する。また、「地球に優しい」というスローガンは「人間の棲息できる地球に優しい」の意味であり、このスローガンに基づく環境保全運動は本当の意味では地球に優しいとはいえないのではないか、とも。
 そこで著者はヒトという生物がどのように進化していき、何を淘汰してきたのかを探る。そして、生物的特性として、人間が把握できる集団の個体数は150あたりが限度だという説をひき、その範囲をこえるとどんな深刻な問題も、個人個人にとっては他人ごとになってしまうという。だから、ヒトは地球規模で物事を考えることが苦手なのだ、と。環境破壊問題を切実にとらえられないのはそのせいなのである。
 興味深い論考である。環境破壊という問題をこういう視点でとらえたというユニークさにうならされさえする。とはいえ、著者も書いてはいるが、ヒトという動物の特性のみで全てを解釈してしまうのは危険ではある。こういう視点もあるのだという読み方で、環境問題を多面的にとらえるための手立てのひとつと考えるべきだろう。とはいえ、進化生物学の知見を用いて人間が環境を破壊する理由を論理的に解明するという本書の試みは実にエキサイティングである。
 人間の行動を哲学的に、構造論的にとらえようとする試みは数多くなされているが、そこに本書のような視点を加味すると、さらに面白いとらえ方ができそうだ。多少の論理の飛躍は許して、この思考実験を注視することにより、人間への新たなアプローチができそうである。

(2004年2月7日読了)


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