結核でサナトリウムに療養中だった高校生、滝川龍は、病室を抜け出たところをスズメバチに襲われる。彼を助けたのは〈ゲノムクラフト〉という研究所の矢作弘美という研究者だった。彼女は昆虫の遺伝子が組み込まれたミュータントたちを研究していたのだ。龍はスズメバチの強さを持つミュータントとして蘇ったのだ。結核も完治し、自宅に戻った龍は、学校にもミュータントがいることを知る。その一人は蜘蛛のミュータント、千葉衿子。龍にインネンをつけようとした不良たちを痛めつける。ところが、龍はただ殴り付けただけなのに、その後で発見された不良たちは刃物で傷つけられていた。疑いをかけられる龍。そして、行方不明になっていた元恋人から呼び出しの手紙をもらった龍は、夜の体育館におもむく。そこで彼を待っていたものは……。
仮面ライダーと初期のウルフガイを思い出させるバイオレンス小説。主人公には自分の力を世の中の役にたてようという思いはない。若さの衝動にまかせて暴れたいという思いをあらわにさえする。
ただ、彼や衿子や、同級生のミュータントたちはみごとなまでに背負うものがない。一人だけミュータントである業を背負ったキャラクターが登場するが、その人物が背負うものが彼らに変化を与えるということもない。
ミュータントが発生した理由も特に明らかになるわけではないし、そういう意味では本作はただひたすらバイオレンスを書きたいというだけで生み出されたものだといっていいだろう。それだけというのは、私には少し寂しいのだけれど。
(2004年2月15日読了)