阪神タイガースの独身寮「虎風荘」の寮長を長年つとめ、また、名ノッカーとしても知られた著者の、寮長引退を記念して出版されたもの。著者の目から見たタイガースのV戦士たちや往年のスターたちの姿を描写した部分と日刊スポーツのベテラン記者内匠宏幸による著者の球歴、寮長として経験した虎風荘のエピソードなどから構成されている。
おそらく内匠記者が梅本寮長に取材してまとめたものと思われる。公表して差支えのないエピソードが中心であり、その描写もいたって簡潔。「寮長としての哲学」なる著者の信念も、「プロ意識と社会人としての心構えを両立させよ」というようなもので、特に著者でなくてはというほどのものとは感じられなかった。まさに記念出版という感じであり、全体に物足りなさが残った。別に内幕暴露ものである必要はないが、例えばノックの秘訣や若い選手に共通する気質の変化などがきめ細かく書かれていたらもっと面白くなったのにと思う。せっかく「寮長」という裏方の中でも特別の存在の著書なのだから、そこらあたりをもっと掘り下げてほしいと思うのである。
(2004年2月23日読了)