今や大阪の放送作家の中でも再古参となった著者による、私的芸能史。前著「雲の別れ」が出版された時に、私自身も直接著者に「新野先生なりの芸能史をまとめてほしい」と言った記憶がある。それがとうとう出版された。これほど嬉しいことはない。私だけでなく、大阪の芸能ファンが待望していた一冊といえるだろう。
早稲田大学在学中から数多くの芸能に触れていた著者は、4年生の時に近藤玲子バレエ団の脚本を書いたことがきっかけで、芸能の世界にはいることになる。近藤玲子の推薦で大阪の北野劇場の舞台監督となり、そして放送作家に……。テレビコメディの台本から、深夜ラジオのパーソナリティーと仕事の幅が広がり、笑福亭鶴瓶と組んだラジオ大阪「ぬかるみの世界」が人気を呼んで、一躍知名度が上がる。「今夜なに色?」や「ナイト・イン・ナイト」などテレビ出演も多くなる反面、タレントとしての知名度が上がると台本の仕事が減るという現象もあった。東住吉高校で講師をし、高校生に芸能史を教え……。著者の活動はさらに広がっていく。
タイトルの「廻り舞台」は著者が大阪で最初に芸能界に関わった北野劇場にあったものからつけられたのだろう。そして、著者はその廻り舞台に乗る方ではなく、下で回す方だという意味をこめているものと思われる。
昭和30年代の大阪の劇場の様子、コメディ番組全盛時代の大阪のテレビ局の様子、ラジオ深夜放送の状況など、著者の幅広い経験が、大阪の芸能界の移り変わりを俯瞰的にとらえる形になっている。だから、著者の見聞した範囲での芸能史でありながら、全体像もつかめる。淡々とした語り口から、芸能への深い思いが汲み取れる。
このような本を期待していたのである。あとがきで「書けなかったパートもある」と記しているので、さらにそのパートもまとめていってほしい。大阪の芸能研究に新たに加わった貴重な一冊である。
(2004年3月5日読了)