2001年より始まった、コンビ結成10年までの若手漫才師を集めた漫才トーナメント大会「M−1グランプリ」。3年目を迎えた2003年になると、優勝者に対する注目度も高くなり、参加する漫才師の意識も変わってくる。
著者は東京在住のライターでありながら、吉本興業が大阪で発行する「マンスリーよしもと」の編集に加わったという経歴の持ち主。もともと漫才に対する思い入れはなかったが、3年にわたる「M−1グランプリ」の取材を通じ、漫才に賭ける若い芸人に対する見方が変わってくる。
本書は、そんな著者がとらえた「M−1グランプリ」の舞台裏の姿である。第1回でいきなり決勝に残って話題を呼んだ「麒麟」、第2回から第3回にかけて一気に成長していった「笑い飯」等をはじめとする若手芸人たちの心の動きや、大会を発案した島田紳助の思いなどがドキュメントとして綴られていく。
本書は貴重な記録となるだろう。「M−1グランプリ」が定着していくにつれ、そうとうな権威を持つ大会になることが予想される。その時に、リアルタイムでとらえられた草創期の実情がこのような形で残るということ、そこに意味がある。
もちろん、記録的な意味だけではなく、現在進行形のルポとしても、本書は面白い。漫才といういわば一度古びかけた芸能に新たな命が与えられていく、その過程を私は胸を高鳴らせながら読んだ。楽器も小道具もいらない。マイクの前に立って2人の人物がしゃべるだけでいい。それが1位の賞金1000万円という形で結果にあらわれるのだ。その芸に関わる人々の動きが直接伝わってくる。コンビごとに人間ドラマが生まれてくる。著者はそのドラマをかっちりと握って離さないのである。
(2004年3月6日読了)