読書感想文


張形と江戸をんな
田中優子著
洋泉社新書y
2004年3月22日第1刷
定価720円

 張形……男根の形をした性具である。著者は江戸時代の春画や艶本における張形の描写から、当時の女性の性に対する開放性を読み取っている。春画は、単に男性の性欲を満たすものばかりではなかったと、著者は説く。嫁入り道具の一つとして、性教育のために用いられた「枕絵」など、春画を必要としたのは男性だけではなかったのだという。
 著者によると、上方の艶本に、張形の使用法をマニュアル的に描いたものが多く、それに対し江戸の春画は欲望をかきたてるようなストーリー性のあるものばかりだと指摘する。つまり、女性が張形を実用的に使っていたのは上方であったのだ。上方の性に対するおおらかさがうかがえる。そして、明治維新以降の西洋的な禁欲主義が輸入される以前、本邦では女性に性欲があるのはあたりまえだったということを明らかにするのである。
 著者は、張形が公家の屋敷の奥女中などが男根の代用品として性欲を鎮めるために使用したものが一般に広がり、それが最終的には男性が女性と性交する時に使う責め具に変質していくまでを、春画を年代順にたどることによって示していく。そして、張形と春画を通じて、江戸時代の文化や風俗の性に対する開放性を、また、女性が作り上げていった男性の理想像の変化を明確にしていくのである。
 これが女性である著者の手によってなされたところに、本書の意義がある。女性の研究家が男性とは異なる視点で女性の性に対する意識を解き明かす。多様な視点からの江戸習俗の解明がなされることになる。ここには、女性を欲望のはけ口としているだろうという、男性に対する偏見はないのである。

(2004年3月12日読了)


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