舞台は近未来の上海。米中戦争ののち、英国の〈聖ヒラム騎士団〉、仏国の〈東方協会〉、そして中国の〈老蛇聯〉という3つのマフィアによって分割支配されることとなった。〈老蛇聯〉は孫文以来完成されていない「大上海計画」を実行に移すため、英仏の勢力を排除するクーデターをもくろんでいる。魔都上海に跳梁するギャングたち。彼らは特別な能力を身につけ、抗争を繰り返す。神出鬼没のルーク・ギャングスターウォーカー、だい「大上海計画」を完成させることを望む李教授……。李教授の弟子であり、聖ヒラム騎士団上海支部長ウォルトン卿の養子でもある護堂・マクシミリアン・渉は、聖ヒラム騎士団の一員として動くが、彼の身をそれぞれの組織が狙う。計画の完成に渉が果たす役割とは……。上海の実験を握るのはどの組織か……。
作者がこれまで舞台としてきたのはフランスの近未来黒社会であったが、本書はその舞台と同時代の上海での出来事を扱っている。とはいいながらも、人工的に造形された近未来の都市であるという理由からか、小説にただようムードにさほど大きな違いは感じられなかった。ここのところでもっと徹底的に差別化がはかり、同じマフィアものでも完全に違う趣向にしていれば、と感じた。もっとデカダンで悪趣味な町でもよいのではないだろうか。
ストーリーは基本的には渉という若者をめぐる組織の抗争を軸に進んでいくのだが、細部の描写を独特のスタイルで細かく行っているのだけれども、それがうまく積み重なってストーリーの流れを作り出しているかというと、必ずしもうまくいっていないのではないかと思う。ストーリーそのものが明晰に見渡せられるような構造になっていたら、キャラクターの魅力もより強く輝いたことだろう。
文体は文学の香りを持ちながら展開はうんと安物くさいB級アクション、人間関係はべたべたのメロドラマというところを徹底していけば、かなり独特の面白さが出るのではないかと私は思うのである。むろん、これらを鼎立させるのはかなりの力技が必要なのではあるけれど。作者ならいずれできると期待したい。
(2004年3月14日読了)