読書感想文


参謀本部と陸軍大学校
黒野耐著
講談社現代新書
2004年3月20日第1刷
定価720円

 日本を泥沼のような大東亜戦争に導いていった陸軍参謀本部はどのような経緯でつくられていったのか。戦争指導者を養成する機関である陸軍大学校はなぜ大局的な視点で戦局を見通すことのできる人材を養成できなかったのか。著者は防衛大学校から自衛隊を経て防衛庁の研究機関で戦史を研究している。歴史を追うことにより、組織成立の経緯を解き明かし、そしてその問題点を分析するという極めてオーソドックスな方法を用い、明治から第二次大戦敗戦にいたる諸問題の原因を導き出すことに成功している。
 参謀本部と政治が連動しないという体制の原因は、陸軍が明治初期の士族の反乱を制圧するという目的で作られたことに端を発している。藩閥政治の弊害が、日中戦争や大東亜戦争の勝算なき突入にまでつながっているという事実をはっきりと突きつけているのである。
 さらに、参謀本部や大本営の成立は、山県有朋をはじめとする長州閥の軍人たちによる権力争いの具に使われていたという事実も明らかになる。そして、組織というものが一度作られると、その権益を守るために硬直化し、新たな事態に対応できなくなってしまうということが実証されるのである。
 戦後の繁栄を支えた官僚制度が、新たな時代に対応できなくなっている今、官僚化して身動きがとれなくなり、人材育成も時代に即応できなかった陸軍の歴史をこうやって押さえていくことはかなり重要なことであると感じる。そして、軍を抑え切れなかった戦前の政府がその軍事的情報を得られなかったことにより、逆に好戦的になっていった様子なども、参照に値する。日本政府の本質的な体質が明治以降驚くほど変化していない事実をこのように突きつけられると、慄然とせざるを得ないのである。

(2004年3月26日読了)


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